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アメリカ国籍を持たずに滞在する外国人の遺産相続
(ソイソース2004年6月25日号に掲載された記事)
外国籍保持者の遺産相続に関しては、私はこれまで国際結婚の女性を対象にしたインターネットの掲示板などで質問に答えてきましたが、驚かされるのは「アメリカ国籍がない場合、配偶者死亡時の遺産相続で不利になる。したがって帰化申請をするのが不可欠である」と信じている人、または実際にそういうアドバイスをファイナンシャルアドバイザーなどから受けた人が多いということです。ここでは「市民権の取得は必ずしも必要ではない」という観点から一般的な情報を提供します。もう少し厳密に説明すれば、「遺産額が一定の基準に達しない限り国籍は関係しない。 一定額を超える場合には、特別な信託の設立によってアメリカ人と同様に遺産税控除を受けることが可能である」ということになります。 アメリカの連邦税法においては無制限の婚姻控除があり、配偶者間での遺産相続は非課税となっています。ただし、この控除により遺産税がゼロになるのではなく、生存した配偶者の死後まで遺産税の納税を延期させることが可能になるのです。(つまり夫の死に際して妻は遺産税を払わずに済みますが、妻の死亡によって子供が相続をする時点で免税枠を超過した分は課税対象になるということです。)婚姻控除による税金の繰り延べ効果を上手に利用することが財産管理において非常に重要な意味を持ちます。 1988年まではアメリカ国籍があるかないかに関係なく婚姻控除が適用しました。ところが、非アメリカ市民が配偶者の死後、課税を受けずに財産を国外に持ち出す可能性があることを議会が危惧したことから法律が変更となりました。その結果として、グリーンカード或いはその他のビザで居住する外国籍保持者の場合、婚姻免除の恩恵は受けられないことになったのです。(ちなみに死亡した方の配偶者がアメリカ市民であるかどうかは婚姻免除の点で全く関係しません。問題になりえるのは、あくまでも相続を受ける方の配偶者の国籍です。) ここまでの説明だとアメリカ市民でない人たちは即座に不安になることでしょう。しかし遺産税においては婚姻免除とは別に基礎控除額があり、こちらの方は市民権の有無に関係なく適用します。この免除額は2004年では$1.5 millionとなっています。ですから遺産がその限度額を超えない場合にはグリーンカードやビザで滞在している配偶者でも影響はありません。(ちなみに控除額は年ごとに段階的に増大していき、2006年には$2million, 2009年には$3.5 millionに引き上げられる予定です。) ですから非市民の遺産相続を考える上で、まず不動産や銀行預金、株など財産の総額を計算し基礎控除額の範囲内に収まるかどうかを見極めるのが大切です。ワシントン州は共有財産(community property)という制度をとっており、原則として夫と妻が二分の一ずつ財産を所有するという仕組みになっています。(この原則には例外がありますが、字数の都合上、省略します。)ですから配偶者の死後、その共有財産の二分の一、すなわち故人の持ち分が課税対象となるわけです。 留意しなければならないのは、生命保険金も財産に含まれ課税対象になる点です。「どうせ我が家には大して資産もないから税金対策は必要ない」と早急に結論を出す人がいますが、いざ保険金を入れて計算をしてみると意外に限度額を超えてしまうというケースもあるので要注意です。 遺産額が基礎控除額の範囲を超える場合には、QDOT (Qualified Domestic Trust)なる特別な信託を作成するによって控除を受けることが可能になります。この信託を設立するには厳格なルールを守らねばなりません。その一つとして信託管理人(trustee)の最低一人がアメリカ市民であるか、あるいは国内の会社(信託会社や銀行など)であるという規則があります。(それによって資産が国外に持ち出されるのを防ぐのが目的です。) 後者のようにプロの管理人を依頼する場合には高度な専門知識を土台としたサービスを受けられるという利点もありますが、もちろん手数料がかかります。成人した子供がアメリカ国籍を有するのであれば管理人になってもらう選択もあります。 ただし信託管理の責任は重大なものですから、近親者といえども十分に信頼がおける関係であることが必要です。また生存した配偶者自身が共同管理人(co-trustee)となることもできます。 遺産額が上記の免税枠を超える場合には夫婦が二人とも生きている間にQDOTの作成をしておくと安心かも知れません。しかし配偶者の死亡後9ヶ月以内に遺産税を納める義務がありますから、その期間内にQDOTを設立するか、或いは既に別の種類の信託がある場合、それをQDOTに作り換えるという選択も可能です。また、この9ヶ月という期間内に市民権を獲得するという選択も法的に認められています(その場合、配偶者の死亡の日から市民権獲得の日までアメリカに引き続き居住していたという条件を満たさねばなりません)。しかし帰化申請には時間を要するため、これは必ずしも現実的な選択とはいえないでしょう。
QDOTの厳格な規則や管理費などを考慮した場合、やはり最終的には配偶者の生存中に市民権を獲得しておく方がいいのではという見方をする人もいます。市民権の選択は最終的には個人の問題であることを明記しておきます。いずれにせよ相続対策は配偶者の死という憂き目にあってから始めるのでは遅いので、存命中にしっかりと計画を練っておくことをおすすめします。 とりあえず遺産の額に関わらず遺言状(will)は必要ですから(特に未成年の子供がいる方には不可欠です)、遺言状作成を契機に相続全般について考えてみてください。 なお遺産相続、特に遺産税は複雑な分野ですので限られた紙面ではごく基本的なガイドラインを説明するにとどまります。したがって、この記事は個人的な法的アドバイスではないことを明記しておきます。個々のおかれた具体的な状況において法の適用にも違いがでる可能性があり、その状況に応じた対策が必要なことを留意した上で専門家に相談して下さい。 |